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そもそも、人はなぜ、眠くなるのか?

なぜ、脳は「眠る」という休息法を選んだのだろう。

実はここに、脳のスイッチをさらにうまく切るヒントがかくされている。

睡眠医学の歴史は、今日まで興味深い歩みを続けてきました。

睡眠を医学的にとらえたのは、古くはヒポクラテスを代表とする古代ギリシャ

にまでさかのぼります。そこから東洋医学の「陰陽説」などでも睡眠が

論じられ、中施ヨーロッパでは、宗教的な解釈が加わることが目立ちました。

しかし、19世紀のヨーロッパではしだいに「脳における疲労物質の存在」

などの学説が提唱され、睡眠を科学的に検証しようとする動きが目立ち始めます。

「睡眠物質」の存在が提唱され、「寝ないと睡眠物質が蓄積して眠くなる」

とされると、日本でもヨーロッパでも、それを探そうとさまざまな研究が行われ

ました。「寝ている動物の血液や脳脊髄液をとって、違う動物に入れたら

どうなるか?」「2匹の動物の血管を互いに結合すると、2匹同時に眠る確率は

高くなるのか?」という極端な実験もありました。

現在、睡眠は神経科学の研究対象となっており、完全とまではいかないですが、

かなり解明が進んでいます。スタンフォードでの、西野先生たちの「ナルコレプ

シー病態解明」のように、睡眠障害のメカニズムも明らかになりつつあります。

睡眠や覚醒にかかわる「神経細胞」や、「神経伝達物質」の特定も進んでいます。

例えば「アデノシン」という物質。「抑制の働き」を持つ神経伝達物質で

DNAの基本構成成分なので、太古の生物・アメーバなどの「真核生物」にも存

在します。これは、睡眠の起源は非常に古い可能性があることを意味していまし

て、植物が眠っていても何ら不思議ではないのです。

「カフェインが眠気覚ましになる」というのは、カフェインが人を眠らせる

アデノシンの働きを妨害するためであります。強力な覚醒作用のあるカフェイン

は、コーヒーやココア豆などの植物由来で、動物の体内ではつくられないのです。

また、強力に覚醒を引き起こす「オレキシン」という神経伝達物質は、覚醒だけ

でなく摂食(食べること)にも関与しています。

「オレキシン」という名は、ギリシャ語で「食欲」を意味する「オレキシア」から命名されています。

このオレキシンが発見された翌年、オレキシンが欠乏することでナルコレプシー

が引き起こされることを西野先生の研究グループがつきとめたのです。

簡単に言えば、彼らは「突然眠ってしまう」のではなく、「通常の覚醒が

維持できない」のです。

人は連続して16時間程度起きていられます。その間、「オレキシン」などの

覚醒物質は活動を続けますが、眠りたい欲求である「睡眠圧」も上昇します。

サーカディアンリズムの影響を受けて覚醒物質の活動が弱まってきますと、

「睡眠圧の上昇」が「覚醒物質の活動」を上回ることになります。

この「睡眠圧の上昇」が「覚醒物質の活動」を逆転する状態こそ、眠気が

増してくるときに脳内で起きている現象なのです。

スタンフォードの睡眠j実験「1日がもし90分だったら?」

睡眠研究はまだまだ「これから」という分野で、神経活動や神経伝達物質

だけでは入眠の説明はつかないのですが、これに関連してスタンフォードが行った

「眠気と脳」についての実験を紹介しておきます。

睡眠の計測・実験は時間がかかるといいました。睡眠は通常、1日に1回。

睡眠パターンの記録データを蓄積するには、何日も必要です。

しかも、これらの記録は人が眠っている夜中に行われます。

たとえばナルコレプシーには、眠りに関して2つの異常が見られます。

1つは入眠潜時(ねるまでの時間)が極端に短いこと。もう一つは、通常

眠ってから90分後に出るレム睡眠が、入眠してすぐに出てしまうことです。

これらをもっと効率的に観察できないのでしょうか?

そこでスタンフォードでは、1980年にある工夫をしました。

ナルコレプシー患者のデータ蓄積と「1日のうち、寝る時間帯によって

レム睡眠の出方は変わるのか?」を同時に調べるために、1日を90分にみたてた

実験をしました。この試みは「A90minute day」実験と呼ばれています。

まずは1日を90分と考えます。

24時間は1440分(24時間X60分)。

1日が90分という設定なら、理論上は24時間で16日分、1日で2週間以上の

データが取れることになります。(1440分÷90分=16日)

この方法は、通常の「1日1回」限りのデータ採取に比べて非常に効率的で

実験費用や被験者の拘束時間などの負担も軽減できます。

最も大事なのは24時間にわたり「異なる就眠時間のデータ」を採取できるので

眠気やレム睡眠の日内変動のシュミレーション(1日のうち、時間帯によって

睡眠はかわるのか)ができることです。

1日90分のうち、「60分が覚醒時で30分が睡眠」と設定し、次のような観察を

しました。

30分とってある睡眠すべき時間のうち、何分で入眠するのか?

眠気がいつおこり、どう変化するのか?

夜の90分と昼の90分だと、眠気に違いはあるのか?

実験スタートはまず、「起きている時間」とし、被験者は60分間、本を読んだり

運動したりします。

その間は脳波電極をつけてもらい、眼球運動や筋電図も記録しました。

60分後、「さあ、寝る時間です。ベッドに入って横になってください」と消灯

します。眠ることができれば寝てもらい、30分間の「睡眠時間」でもおなじよう

に、脳波などを測定しました。90分後、被験者を起こします。

これで「覚醒60分+睡眠30分}の1日(90分)が完成します。

ナルコレプシー患者の場合、どの時間帯においても入眠潜時が短く

レム睡眠が入眠後すぐに出てしまうことがわかりました。

このあたりは、予想された結果ですが、重要なのは、健康な人であっても

昼間(図のI~J)にも強い眠気やレム睡眠の異常を検知できたことでした。

なぜなら、これによって覚醒時でも午後になると眠気が出てくることが

、目に見える形でとらえることができたからです。

これらの結果は、後にスタンフォードが開発した、昼間の眠気を客観的に

測定する検査「MSLT(反復入眠潜時試験)」につながります。

「寝る直前」は眠くない?

「A90 minute day」以外にも、イスラエルの睡眠研究家ベレッツ・レビー氏

によるさらに時間を細かく区切った「13分起きて7分寝る」という、

「A 20minut day」もおこなわれるようになったのですが、ここで予想外

のことがわかりました。

人は普通、ずーっと起きていると「睡眠圧」が上がります。つまり、

起きていればいるほど眠くなるのです。そう考えますと「眠る直前」が1番

睡眠圧が高くなります。つまり、「入眠直前が1番眠い」はずです。

しかし、この実験では、通常就眠する時間の直前から2時間前あたりまでが

もっとも眠りにくいことがわかりました。いつもの就眠時間より前の6ブロック

(20分X6)、被験者は眠りづらそうにしていました。

これを実際の睡眠に当てはめれば、毎日必ず午前0時に眠る人は、22時からの

2時間が1番眠りにくいことになります。

このように、入眠の直前には脳が眠りを拒否する「フォビドンゾーン(進入禁止域 Forbidden zone )」というものがある。いわば「睡眠禁止ゾーン」なのです。

「フォビドンゾーン」はレピー氏が1986年に提唱した理論で、なぜこういった

現象が起こるのか、いまだ解明されていませんが、現象は他の研究者も確認

しています。考えられる仮説としては、睡眠圧が上がっていく変化の過程で

それに対抗して増加する覚醒を維持するシステムがあるのではないかということ

なぜなら、このシステムがないと、脳は「眠気をこらえる」ことができないので

睡眠圧に対抗するものがないと、10時間も覚醒を維持できることが説明

できないのです。

睡眠圧に対抗するシステムは、入眠直前に最高に強くなり、その後急速に

活動が弱まって脳が睡眠モードになることが予想されます。

この、「睡眠圧に抗う」物質としては、やはりオレキシンが筆頭候補に挙がって

いまして、少数の被験者での実験にはなるのですが、オレキシンが欠乏している

ナルコレプシー患者では「ファビドンゾーン」が認められないという報告もあり

興味深いところでもあります。

「明日早い!」と気の秘策はこれ!

このじっけんから、脳のスイッチを早く切ろうとすると眠りづらくなることが

わかります。「今日は1時間早く寝よう」というのは、よくあることです。

「明日は朝早く出かける」「出張だ」というときは早めに寝たいですね。

また、「積み残した仕事を早起きしてやりたい」ときもあるでしょう。

しかし、「1時間早く寝る」ということは睡眠禁止ゾーンへの侵入のので、

かなり難しいことです。逆に、フォビドンゾーン現象を理解していれば

「いつも通り寝て、睡眠時間を1時間削る」ほうが、すんなり眠れて質が確保

できる可能性は高いです。

時間を固定した睡眠パターンは有効ですが、睡眠禁止ゾーンの影響もあって

前にずらすには時間がかかります。

「後ろにずらすのは簡単です。前にずらすのは困難」これが睡眠の性格なのです。

1日で楽にずらせる時間は1時間です。これは時差ボケの順応と一緒で、

8時間の時差であれば8日かかるわけですから、睡眠パターンを変えたいなら1日

では、むつかしいです。

それにくわえ、就眠時間を前倒しするのは1時間程度が限界だと思われます。

残念なことにその1時間前には、「睡眠禁止ゾーン」がたちはだかります。

そのことからも、「明日は早い!」と突然分かった場合は、無理をせず

いつも通りの時間に寝て質を保つほうだいいでしょう。

しかし、というかたは、1時間早めに寝たいのであれば、1時間早くお風呂に

入って、ストレッチなどの軽い運動を組み合わせて体温を作為的に

上げることをお勧めします。

「眠りの定時」を厳守しよう!

戦略を練らないと、「早寝早起き」を実行するのは困難です。

就眠時間の前倒しは難しいのです。

睡眠禁止ゾーンのほかにも、「就眠時間の前倒し」妨げる要因はたくさんあります。

「仕事が長引いた」「飲み会があった」など、何かしら予定していないことが

起きるからです。

眠りのせかいでは、スケジューリングが幅をきかせます。

睡眠の質をかくほするためには、起床時間をこていしましょう。

たとえ睡眠時間が少なくなっても、無理やりであっても、まず起きる時間を決めます。

それに合わせて、就寝時間をセットしてください。

人は14~16時間ほど覚醒が続きますと、睡眠圧が高くなり、事前とねむくなるのを

見越して、組み立ててみましょう。

こうして睡眠のパターンが決まれば、次は眠る時間を固定しよう。

毎日は難しくても、基本的な寝る時間を定時にしてください。

「入眠潜時」ではなく「入眠定時」といえます。

定時である以上、仮に翌朝早く起きなければならないときでも、早寝はしない

でください。

いつも通り、決めた時間に寝ることを心掛けてください。

これによって「睡眠禁止ゾーン」への立ち入りを防ぎ、結果的に睡眠の質を

あげることができます。

入眠定時が脳にセットされることで、黄金の90分もパターン化されます。

光は「見方」次第で、毒にも薬にもなる。

さきほど、お話しました「ブルーライト」について、脳との関連を深堀して

みましょう。

眠りを促すホルモンとしてよく知られているメラトニンは、朝の光によって

分泌が抑えられ(覚醒)、夜になると分泌が促されます、

反対に言いますと、夜にコンビニなどで、強い光を長時間浴びますと、メラトニン

の分泌が妨げられ、睡眠や体内リズムを狂わせます。

これまでは、「強い光」というあいまいな表現を使わざるをえなかったのですが、

網膜で470ナノメーターという単位の波長を感知しますと、覚醒度をあげたり、

パフォーマンスが上がることが最近の研究で突き止められています。

同時にこの波長の光は、メラトニンの分泌を抑えるので、眠りのスイッチの

さまたげにもなります。この光こそ「ブルーライト」なのです。

ブルーライトは網膜に良くないといわれていますが、ネガティブな要素とは逆に」

覚醒やパフォーマンスの向上に役立つなど、いろいろな生理機能にポジテイブな影響を

あたえる可能性がいわれています。

実際、ナイトゲームでブルーライトを照射し、覚醒度やパフォーマンスを上げ、

さらにけが防止の目的で夜間照明を工夫しているメジャーリーグの球団が

あります。

スタンフォードにも、夜になるとブルーライトを落とすPCのプログラムを

自分で作成している学生がいましたが、各メーカーも」そうしたものを

作っているようです。

西野先生の意見は、先ほども述べたとおり、照度の低いブルーライトに

神経質になる必要はないのですが、知識として、デメリットもあるということを

おぼえておいてほしい。

眠る前はブルーライトの影響力を強める行為(真っ暗な部屋でスマホを長時間

見ることはNGです。)」

最高のパフォーマンスをつくる「覚醒のスイッチ」

脳と眠気の関係についてかんがえてきましたが、「なんだか眠たい」という感じは

大切なものなのです。体温、脳、ホルモン、自律神経の働きが連動して起こるものです。

理想をいえば眠い時に寝るのがいい、特に夜は「眠い」と思ったら、寝てしまいましょう!

これも強力な睡眠スイッチなのです。

反対にどうしても眠気が襲ってきて戦わねばならないときの、対処法は

5章でのべよう。

まだまだ、なぞの多い「睡眠」ですが、実際、睡眠より、覚醒についてのほうが

解明されていることはたくさんあります。

例に挙げると、眠っているときには分泌がすくない「ステロイド」は活動系の

ホルモンで免疫を抑制する働きがあります。

そのため、免疫が活動する夜はおとなしくしています。

朝が近づくにつれ、分泌量が増えてきます。

ノンアドレナリン、ヒスタミン、ドーバミンも覚醒時に働く脳内化学物質です。

これらが働いて覚醒度が上がりますと、日中のパフォーマンスは高くなり

結果として最高の睡眠に近づいてきます。

ホルモンについて語るには、ページ数が全然足りませんので

本書では、割愛します。

「覚醒のスイッチ」をオンにして、日中のハイパフォーマンスにつながれば

「質の良い睡眠が得られます。というのは、覚醒と睡眠は表裏一体で、「

「良い覚醒が「良い睡眠を導く」「良い睡眠が良い覚醒をもたらす」

とういのは真実です。

ここまで「最高の睡眠」のとり方と、「良い睡眠が覚醒にどのような影響を与えるのか」

を中心に考えてきましたが、では「良い睡眠が良い覚醒をもたらす」とはどいう

ことなんでしょうか?

例を上げれば、「食事」。食べ方ひとつとっても、睡眠の質に大きく影響します。

「日中どうすごしているか」は眠りにとってとても重要なのです。

「覚醒が睡眠に対して持っている力」そして、ぐっすり眠るために

「朝起きてから夜眠るまで」どんな行動をとればいいのでしょうか?

次の第4章で考えていきましょう。

食事

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