脳が劇的に回復する「眠たい」チャンスタイム
ここで、よくいわれている「パワーナップ」(仮眠)についても書いておきたい。
サルの睡眠について調べてみると昼寝が多いことがわかります。
人間の場合は社会生活をしているので14~16時間連続して起きているのが
普通ですね。種としてのヒトは、進化の過程で昼寝をとっていた可能性があります。
実際にスペインなどでは、しっかり昼食をとったあとに睡眠をとります。
「シエスタ」と呼ばれる風習が浸透している地域があります。
午後3時ごろになると、商店、企業、官公庁などの多くが休業時間をとるようです。
ヒトの場合、前述のように14時頃眠くなるという実験結果がでていますが、
このアフタヌーンディップは、霊長類には避けられない睡眠パターンなのかも
しれないですね。
病的なレベルだと問題ですが、多少覚醒水準が落ちたり、パフォーマンスが
下がったりする程度なら自然な生理現象です。つまり、ヒトであれば、
眠気をさほど敵視する必要もないし、身の危険もないのです。
入眠はには様々な条件が必要ですが、「眠たい」ときは体温や脳の眠りの条件
が整った数少ない瞬間だから、実はチャンスタイムなのです。
仮眠5分前に温かいものを持つなどの工夫をして手を温め、スムーズに深い仮眠
に入れば、眠気をこらえて起き続けるよりもパフォーマンスはあがるでしょう。
「眠気=排除すべきもの」という意識を、「眠気=チャンス}とスイッチして
みよう。この発想の転換で、アフタヌーンディップも味方につけられるでしょう。
超一流の「パワーナッピング」メソッド
Googleやナイキなどの勤務時間中に昼寝を推奨しているアメリカ西海岸の企業は、
パワーナップの効果をしっているのでしょう。
仮眠用のスマホアプリもでているようです。パワーナップの効果は実験データと
しても現れています。ここでまた、「タブレットの画面に丸い図形がでるたびに
ボタンを押す」実験に場面を移そう。
この実験では覚醒度をしっかりとらえられるよう、リアクションタイムを計って
いるわけですが、「13人の被験者で90時間近く連続しで起きていたらどうなるのか」
という実験もしています。起きている時間が長いほど、反応に時間がかかったり、
ボタンを押し間違えたりする「反応ミス」がどんどん増えていきます。
この結果は想定内ですが、連続して起きている12時間おきに2時間、仮眠をとると
(1日4時間)、ミスが減ることがわかりました。ただし、4時間の仮眠で、反応
時間を完全に正常化することはできませんでした。
今回は12時間につき2時間の仮眠タイムを設けましたが、これは一般的では
ないでしょう。(これも、ビジネスパーソンに仮眠をおすすめできない
理由のひとつ。)。だがご安心を。「20分」程度の仮眠でも、ある程度リアクシ
ョンタイムが回復することがわかっています。
日本の会社が率先して昼寝ができる職場環境を整えるのは、まだ先の話
かもしれませんが、我慢に我慢を重ねて全体の効果が落ちるより、たった、
「20分の仮眠」でそのほかの時間、力を出せるようになるほうがはるかに良いと
おもわないですか?
ぐっすり昼寝」は脳にこんなに良くない!?
かように仮眠の効用はありますが、あくまでも「仮の眠り」という点に注意
してほしい。
2000年、日本の九九率精神・神経医療研究センターの朝田隆氏、高橋清久氏
らが高齢者337人のアルツハイマー患者とその配偶者260人の「昼寝の習慣と
認知症発症リスク」についての解析を行いました。興味深いことに、
「30分未満の昼寝」をする人は「昼寝の習慣がない」人に比べて、
認知症発症率が約7分の1でした。また、「30分から1時間程度昼寝をする」人も
、「昼寝の習慣がない」人に比べて発症率が約半分になることがわかりました。
これだけ見ると、「昼寝は認知症を遠ざける」といえそうですが、話は
そんなに単純ではないですね、「1時間以上昼寝する」人は、「昼寝も習慣
がない」人に比べて発症率が2倍も高かったのです。
昼寝にちょっと寝ようというとき、30分以上もぐっすり寝てしまうというのは
、すでにアブノーマルな老化や疾患があるかのせいもあります。
そうでなくても、ビジネスパーソンが30分以上昼寝をするというのは、
物理的に難しいうえ、集中力が低下したり、睡眠慣性による弊害(寝ぼけ)
も起こしかねない。昼にぐっすり寝てしまうと、健康で若い人であっても、
夜に睡眠圧が上がらず、スムースに入眠できない可能性もあります。
もちらん、脳への影響も考えられます。
こうした要素を考えると、「仮眠をとるなら20分程度」とするのが
よさそうです。
「細切れ睡眠」は、はたして有効なのか?
筆者は、アメリカでは、キャンパスの隣の市から自転車で移動しています。
実はシリコンバレーでは今、交通渋滞が問題になっており、自転車で
15分かからない通勤が、車だと1時間近くかかることもあります。
また、年間を通じて気温は安定していて湿度も低いので、つかの間の
サイクリングは非常に快適でもあります。
日本だと電車通勤が多いとおもいますが、よく席に座って眠っている人を
よく見ます。ちなみに電車内の仮眠はたいていノンレム睡眠です。体がぴくぴく
したり、眼球運動が出ない人のほうが多いでしょう。座ったままの不安定な
姿勢では、そう簡単にはレム睡眠はでてきません。深い睡眠にいきなり入るの
で、目覚めは当然悪い。
日本で企業向けの講演などをすると、「朝晩の電車での細切れ睡眠は、
睡眠不足解消に役立ちますが?」という質問を受けます。
結論からいいますと、連続して眠った6時間と、細切れで眠ったトータル6時間
は質がまったく違う。スリープサイクルが、細切れでは正しく眠れないため
です。いずれにせよ、電車の仮眠は睡眠の問題解決につながるのだろうか?
これこそまさに、「better than nothing」です。全く寝ないよりも
短い時間でも仮眠するほうがいいが、細切れ睡眠で完全に補完するのは不可能
です。あくまで補助的なものとしてとらえよう。
あらかじめ「家のベッドで4k時間、朝夕の通勤で2時間、合計6時間睡眠だ」
というようにパターン化するのは、苦肉の策としかいえません。
「電車でねむるから大丈夫」とういのが日常的な人は、長期的なパフォーマンス
低下や、体に悪影響を与える可能性もふまえて、考えを変えるほうが良さそうだ
ブルーマンデーを打破する「土日の睡眠法」
日曜日の夜になると「ああ、また月曜日が来る」憂鬱になります。
目が覚めても覚醒するところか「もう月曜が来てしまった」ときが沈む。
いわゆる「ブルーマンデー」も睡眠によってコントロールできます。
週末というオフタイムから月曜日というオンタイムにうまく切り替え
られないのは、リズムの問題もある、金曜日に飲みに行き、土曜日
は家族とでかけてという行動をしていたら、就眠時間が遅くなり、
そのあおりを食らって起床時間も遅くなります。すると、後ろへと
リズムがずれるうえに、睡眠の量も質も下がってしまうことに。
土日の朝、いつもより1~2時間多めに眠る(起床時間を後ろにずらす)
くらいなら特に問題はないと言えます。
それは体が」必要としている眠りだからです。
実際、私も土曜日に少し多めに眠るようにしているのですが、あるとき
懇意にしている隣人の老夫婦のPCが壊れたことがありました。
困っているらしく「同曜日の朝、1度見てあげてほしい」と妻から頼まれ修理の
ため、いつもの土曜日より早めに起きました。しかし、体が欲する眠りが
とれなかったからでしょう。
こんな些細なことで翌週体調がすぐれなかった覚えがあります。
週末は、「いつもどおり」を心掛けましょう。とくに、平日より少し多めに
眠るとしても、就寝時間はウイークデーと同じにするのがおすすめです。
私たちの研究室でおこなう「ラボミーテイング」月曜日にセッテイングしている。
残念ながら会議室の空き具合の関係で午後1時開始ですが、この会議質の予約状況
を見てみると、ラボミーテイングは月曜日に集中しており、しかも朝8時から
ぎっしり埋まっています。
医学部の臨床会議も「月曜日朝7時」や8時が多いです。「月曜日朝7時出席」
を2~3年続けていますと、週末の生活パターンも当然変わってきます。
チーム運営に臨むリーダーなら、月曜日朝に会議をもってくるのも
ひとつの手です。これだけで部門のパフォーマンスが格段に変わって
きます。ただし、その分夜の長い会議や、仮眠を促す無駄な集まりは廃止
したほうがけんめいでしょう。
ミーテイング自体もコンパクトにしたほうが、ブルーマンデーには効果的だ。
個人レベルであれば、月曜日の午前中に重要なタスクを持ってくるなどして
ある程度強制力を働かせるのも手だ。
また、管理職の人は部下の健康管理(とくにうつ病やアルコール依存症、不安
神経症などの予防)のためにも、「睡眠衛生の重要性」を常に頭においてほしい。
眠れなさそうなら、「ちゃんと眠れているか?」と、一言 声をかける
ところからはじめてほしい。うつ病などによる自殺(月曜府に多いといわれる)
が深刻化していますが、適切な睡眠マネージメントでかなりの改善を望む
望むことができるのですから。